[ 彼と君と俺と ]
昼、2,3個のパンと飲み物を持って村神俊也は、裏庭の見える廊下を歩いていた。
なにげなく、裏庭に目をやると見覚えのある影があった。
「空目・・・?」
俊也は、とっさに声をかけるのを止めた。
そこには、アンティーク調のベンチに座っている空目とあやめがいた。
何かを話すでもなく、ゆっくりと流れる時間を楽しんでいるかのように。
ただ時折、あやめは暖かな瞳で空目を見て微笑んだ。
空目も、そんなあやめに答える様に見つめ返した。
俊也は、何も見なかったようにその場を後にした。
授業中、俊也は考えていた。
あの時、俊也の中に今までに感じた事のない感情が、どこからか滲み出てきたのだが、
それはどちらへ向けられた思いなのかわからないでいた。
ただ、そこに行っても、二人の中には入れないと不意に思ったのだ。
空目は前に「あやめはただの道具だ」といったが、その時の俊也にはそうは思えなかった。
古い映画のワンシーンのようで、見ているしかなかった。
いつも何かに怯えたような、すまなさそうな顔、泣きたいのか困っているのか解らない
瞳、
あの時とはあきらかに違う顔。
どうして俺には、・・・そう思った時、授業を終らせる鐘鳴った。
放課後、部室に行くと木戸野亜紀が本を読んでいた。
俊也は、机に鞄を置きながら亜紀に話しかけた。
「他の三人はどうした」
読みかけのページに指を挟み、めんどくさそうに眼鏡を取り答えた。
「陵子と近藤は、化学の抜き打ちテストがあって、みんなで答え合わせしてるって」
「恭の字は・・・」
というか云わないかの時、ドアが開いた。
空目である。
「話し中だったか」
「いや、たいした話しじゃないから」
と亜紀が口を開いた。
「そうか、じゃあ木戸野、少し手伝って欲しい事があるのだが一緒に来てくれないか」
空目が頼みごとをする事が珍しかったので、亜紀は不思議そうな顔を一瞬したが、
「・・・わかった」
といい、指を挟んでいた本に栞を挟み、ひき受ける事にした。
「村神、留守を頼む」
そう云うと亜紀と一緒に部室を後にした。
その時、俊也はホッとしていた、なぜならあの二人、空目とあやめには、あまり会いたくなかったからだ。
「行ったか」
空目と亜紀を見送り部室の中を見渡した。
「????」
俊也は、違和感を覚えた。
自分の視界の中に居るはずのない臙脂色の服の少女がじっと見つめていた。
「おまえ何でここにいるんだ」
不意に話しかけられて、あやめの体はビクンと跳ねた。
「えっ・・・あっ・・・ごめんなさい」
少女は、大きな犬に怯えているようにビクビクとしながら答えた。
「謝れなんて云ってない、空目と一緒に行かなかったのか」
いつもと変わらないあやめに、さっきまでの気持ちが暖かいものへと変わった。
「アナタに・・・話しておきたいことがあったので・・・それで・・・その」
「・・・・」
何も言わずにあやめを見つめる。
さっきまで震えていたのが不思議なぐらいに、背筋を伸ばし、
ゆっくりと歌を歌うように話し始めた。
「私は・・・ここにいてはいけない存在で・・・アナタと生きている時間が違い・・・ます。」
「・・・?」
俊也は何をいいたいのか解らないでいた。
「だから・・・短い時間でもアナタと・・・好きな人と一緒に、いたいです。」
俊也はこの暖かな気持ちが解った気がして笑いが込み上げてきた。
「くくっ 」
不意に笑い出した俊也を見てきょとんとしているあやめ。
それを見てまた笑いが込み上げた。
俊也は、何とか笑いを押さえて、
あやめの長くてサラサラな髪を乱す様に頭を撫ぜる。
「俺もおまえが・・・・・・」
図書室、
「恭の字、何か企んでるでしょう」
厚い本を何冊か空目の前に置いた。
「なぜそう思う」
今やっている作業を止め空目は、亜紀と話す体制にはいった。
亜紀も近くの椅子に腰をかけた。
「こんな本、いくら調べても意味無いと思ったからね。それにあの子を置いてくるのもおかしいし」
そういいながら、空目が目を通し終わった本をパラパラと意味もなく、めくっている。
「置いてきたのではない、あやめが留まるといったからな」
空目がかすかに笑った。
亜紀は空目の優しい笑顔に驚いたが、気を取り直した。
「まあ、私は楽しいからいいけどね」
そう、空目とこうして話しをすることが亜紀にとって一番の楽しみだったりする。
推敲する点も、誤字脱字もございますが、どうぞ読んであげてください。
[word by 要炯]