[ get a day ]


   ふわりと葉が舞った。
   朱く色付いた、秋の黄昏。

   空目は軽く目を閉じた。

   「……」

   誰も居ない放課後の屋上。
   遠くで群青の闇が、茜の空を侵食していた。

   影が、床一面に広がっている。

   「……」

   瞑目する。
 
   こうして居る時だけ。
   こうして居る時だけ、自分の刻を刻む。

   「あやめ」

   不意に、その名を呼んだ。
   すぐに隣にその気配を感じる。

   彼女の方を見もせず、空目は言った。

   「詠えるか?」

   頷く気配。

   すっと、息を吸う音。
   それと同時に空目も瞼を開けた。

   「

     その扉を叩くのは
     誰もが願う、星の輝き。

     月に全てを訊ねましょう。
     流れる天の川の行方。

     堕ち逝く星屑の定めの意味を。

     訊ねましょう星の輝き。
     知りましょう月の囁き。

     私は遠く離れたこの場から。
     言葉の橋渡しとなりましょう。

     繋がれた螺旋の理を。
     誰も彼もが解読せんと。

     けれどそれは選ばれる。
     定め負う者だけが知りましょう。

     乙女が震えながらその手を取るように。
     少年が大人の螺旋階段を登るように。

     定めなら、受けましょう。
     私は聖なる歪を持って、その闇を受け入れます。

     星の輝き、月の囁き。

     選びましょう扉を。
     叩きましょう理を。
                                  」


   透明な歌声は響いて続く。
   遠くまで、果て無く響く。
 
   けれど、それは途中で途切れてしまう。

   「……無理か」

   「……はい」

   あやめは息を整えた。
   空目は思案げに顎に指をかけた。

   「やっぱり、拒まれます」

   「そうか」

   何時の間にか、日は消えていた。

   残ったのは、闇と音の残影。

   空目は踵を返した。
   あやめが後から付いてゆく。

   廊下を通り、門を出た。

   バス停で、空目は空を見上げた。
   光る星。

   何処か陰鬱に浮かぶ月。

   空目は目を細めた。

   「まだ、無駄か」

   その手を、あやめが微かに触れる。
   振り払う事も無く、空目は淡々と空を見上げ続けた。


   「魔王様〜」

   遠くから、走る音と声が届いた。
   振り向くと、稜子が手を振りながらやって来る所だった。

   「日下部……と近藤か?」
 
   「こんな遅くまで学校居るなんて珍しいね」

   「ちょっと待っ……」

   武巳は息切れ気味に立ち止まった。
   稜子も息は弾んでいるものの、疲れては居ない。

   「あやめちゃんも」

   「え?」

   「魔王様と一緒だったんでしょ?」

   「え、あ、はい」

   あやめは落ち着き無く答える。
   稜子は笑う。

   「魔王様も隅に置けないなぁ」

   「何故だ」
   
   「だってぇ……ねぇ武巳クン?」

   「は?何?あやめちゃんがどうしたって?」

   「もう、訊いててよぉ」

   稜子は呆れたように言った。
   武巳は何が何だか分からず首を捻った。

   「あ、バス」

   武巳が指を差した。
 
   「また明日ね、魔王様、あやめちゃん」

   「え、と……お元気で」

   空目の代わりも兼ねて、あやめが返事をした。
   今生の別れじゃないんだから、と武巳は思ったが。

   バスが過ぎ去ってゆくと、稜子は訊ねた。

   「武巳クン。さっき、あやめちゃんの詩、
   聴こえた……?」

   武巳が首を振るのを見て、稜子は首を傾げた。
   自分の聴き間違えだろうか。
 
   けれど、あやめの歌声ほど鮮烈なものは無い。

   何故だろう。
   稜子は拘ったが、武巳はさっさと寮へと向かう。

   「早く帰らないと、沖本に言われるんだ」

   「あ、そうだよね」

   慌てて稜子も追う。
 
 
 
  
   あやめは家の前まで来ると、足を止めた。
   不意にその空を仰ぐ。
 
   その目端で星が流れた。
   
   空目は気にせず、さっさと中へと入って行く。
   急いであやめも入る。

 
   その動きを、闇だけが確認していた。 
     
 


   *END*


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   二回目で初めましても無いのですが。
   前回は何も言っていないので、一応今回。

   取り敢えず名目上は『七巻発売』。
   本屋に売ってなかったので遠くまで自転車で……。

   内容がちょっとアレだったので。
   反射的にこうなりました。

   俊也と亜紀が出て来なかった……。
   前も主役陣は空目とあやめだったのになぁ。

   と、言う訳で(どう言う訳だ)中身すっからかんですが。
   今度こそは亜紀と俊也を入れたい燈禾でした。

   此処まで愛読(?)有り難う御座いました。

  


     [word by 燈禾]