藤本 シリーズ史上初のサヨナラ犠飛


    【阪神2―1ダイエー】
    猛虎の逆襲や!
    甲子園が劇勝に揺れた。
    敵地で連敗し本拠地・甲子園で第3戦に臨んだ阪神は、延長十回1死満塁から八番・藤本の中犠飛でサヨナラ勝ちした。
    先発ムーアから吉野への継投が決まり、四回には金本が同点の1号ソロ。
    日本シリーズでのサヨナラ犠飛が史上初なら、阪神のサヨナラ勝ちは62年の第1戦以来41年ぶりだ。
    前日の雨天中止で流れが変わり、阪神が息を吹き返した。

    ここで決めるしかない。
    1―1で迎えた延長十回1死一、三塁。打席の矢野が敬遠されている。
    星野監督はベンチを飛び出し、次打者席の藤本を呼んだ。
    左手を回して3度肩をもみ、耳打ちする。
    優勝を決めた9月15日の広島戦(甲子園)同点の九回1死満塁でサヨナラ打を放った赤星に耳打ちしたのと同じシーンだ。
    だが、かけた言葉は違う。

    「結婚したばかりなんやから、ヨメさんにええかっこしてこい!」

    優勝の夜に元タレントの裕貴さん(23)と入籍した新婚さん。
    これまでは怖くてしかたなかった闘将のひと言が何よりのエネルギーになった。
    今季最終戦で2安打を放って打率を3割の大台(・301)に乗せた自信を胸に待った初球。
    「カーブかスライダー」。
    高めにきた変化球を力いっぱい叩いた。
    打球は風に乗って伸びる。
    センターの村松が背走してグラブに収めたが、三塁からアリアスが楽々生還。
    日本シリーズ史上初のサヨナラ犠飛だ。
    チームに初勝利をもたらしたプロ3年目の八番打者はお立ち台でしきりに照れた。

    「あそこで打たないと家に入れてもらえないと思って頑張りました。できるだけ飛んでくれと叫びながら走りました」

    ダイエーファンを左翼席のほんの一角に閉じ込めてスタンドを占拠した猛虎党から笑いと大歓声がわく。
    そう、ファンはこんなラッキーボーイを待っていたのだ。
    福岡ドームで思わぬ2連敗を喫したチームを迎えてくれた甲子園。
    吉兆もあった。
    阪神のシリーズでのサヨナラ勝ちは62年第1戦以来。
    その試合でサヨナラ打を放った吉田義男氏がこの日の始球式を行っていたのだ。
    “牛若丸”から不思議な力をもらってヒーローとなった藤本も小兵。
    猛虎の伝説は生きていた。

    移動日と前日の雨で悪い流れを断ち切って迎えた一戦。
    わが家に戻って指揮官の気合も違った。
    七回1死一塁、ダイエーの攻撃。
    ムーアの投球が振りにきた村松の右ひじをかすめ、死球と判定されたときだ。
    ベンチを飛び出し、柿木園球審に「振っとるやないか!」と猛烈抗議。
    最後は「ボケッ!」と怒鳴って引き下がったが、これでこそ闘将、星野仙一である。

    「まだバネ仕掛けが早かったな。安心したよ。反射神経あるなあ」

    高血圧症、糖尿病、不整脈など満身創いで今シリーズ後に勇退する指揮官。
    わずか4安打の打線には「もっと積極的にいかにゃあ」と不満も残るが、まずは一つ戻した。
    あと三つ…。最後の花道を飾るまでくたばるわけにはいかない。






    スポニチアネックス10月23日付